歯を抜かない治療

1.はじめに

一般的に歯科矯正治療というと、どうも歯を抜くといったイメージがあり、事実、日本の矯正医の多くが、患者さんの50%~80%の第一小臼歯4本の抜歯によって治療を行っています。しかし、歯を抜かない(非抜歯)矯正治療という言葉を、皆さんもきっと一度は耳にされたことがあると思います。

歯並びは、歯の大きさとあご(顎)の骨の大きさとのバランスで決まるのですが、顎の骨をベンチ、歯を人にたとえると、歯並びの不正は6人用ベンチに7~8人が座ろうとしている状態です。ベンチがもっと大きければ全員が座れるのですが、その様なことは可能なのでしょうか?成長期のお子様の場合、歯を抜かないでも、全ての歯が並ぶようにスペースを作ることが可能である場合が多くあります。

そのためには、あごの成長を考慮しながら「奥歯に隙間を作る装置」、「顎を大きくする装置」等を使用して、上下の歯列の縦(後方)、及び横への拡大という3次元的な改善を行います。では、具体的な治療の流れについて見てみましょう。

ほてい矯正歯科クリニック

非抜歯矯正治療は大きく次の3つのステップで進めます。

  1. 顎(歯列)を拡大し全ての歯が並ぶためのスペースを作る治療(1年~2年)
  2. 確保されたスペースを利用して歯並びや咬み合わせを整える治療-エッジワイズ治療(~2.5年)
  3. 治療後のケア(~2年)

ここでは(1)について詳しく説明いたします。
(2)の治療はエッジワイズという装置により行います。
(3)歯を動かし終わった後、装置をはずしてそのままにした場合に、歯の位置がいくぶん元に戻ってしまうことがあります。それを防ぐためには治療後のケアがとても大切になります。装置をはずした当日に必ず、治した歯並びやかみ合わせを維持するための装置(リテーナー・保定装置)を装着します。

顎を拡大し歯が並ぶためのスペースを作る治療には、拡大する方向により主に2つの方法があります。

2.[A]歯列を縦方向(後方)へ拡大する治療(1年~2年)

歯列を縦方向へ拡大するとは、奥歯を後ろへ移動させることを意味します。前歯を前方へ動かしても縦方向の拡大になりますが、多くの場合口元が突出してしまいますので、あまり行いません。

写真1の装置(ディス タルジェット)を使用しますと、バネの力により奥歯を後方へ移動することができます。後方移動によってできたスペースは、出ていた前歯を後ろへ下げたり、凸凹の歯並びを平らにしたりするのに使われます。

写真2のヘッドギアーと呼ばれる取り外し可能な器具を、夜間の就寝の際に装着していただくよう、お願いすることがあります。写真1の装置の補助として使用した場合に、より効率的に奥歯を後ろへ移動させることが可能になります(写真1の装置だけや、顎外固定装置だけで奥歯を後方へ移動させる場合もあります)。

3.[B]歯列を横方向へ拡大する治療(1年~2年)

写真3の装置(急速拡大装置)を使用しますと、真ん中にある拡大ネジの作用で上顎の骨自体を横の方向へ拡大することができます。

写真4の装置(クワッドヘリックス)の場合は、ワイヤーの弾力にて歯列自体を横の方向に拡大することが可能になります。どちらの装置も歯に直接くっつけますので、患者さん自身が取り外しできません。
この場合も(A)と同様、凸凹の歯並びを真っ直ぐにしたり、出ていた前歯を後ろへ下げたりするスペースが確保されます。

写真5の装置(拡大床装置)も歯列を横方向へ拡大する装置の一種ですが、取り外し可能なタイプです。真ん中に埋められた拡大ネジの作用により、歯列が横へ拡大されます。写真3や4の装置と比べると効果が若干弱いため、治療期間は延びることが多いです。

写真6の装置(リップバンパー)は主に下顎に用いる取り外し式の装置です。写真1~5の装置は、歯に直接力を加えることにより歯列を拡大しましたが、この装置の作用としましては、間接的に歯列を拡大します。歯列が縮まるように加わっていたほっぺたの筋肉の力を排除することにより、奥歯がほっぺた側に起きあがり、歯列が横に拡大します。

以上のように、矯正装置には、「固定式」タイプ・「取り外し式」タイプ・「家でだけ使う」タイプ、種々ございますが、患者さんの年令、患者さんのお口の中の状態に配慮し、相談の上で装置を決めたいと思います。患者さん本人の意思に反する装置は使用いたしません。

また「床矯正」にも対応しております。ただし、「床矯正」だけでの治療結果には限界があり、当院では上記のような、より高度な装置を使用することにより、従来よりも「歯を抜かない」で矯正治療を行うことが可能となっております。

4.[C]歯を削ってスペースを作る治療

  • 写真7

  • 写真8

歯の表面はエナメル質でコーティングされています(写真7)。この部分の1/4~1/3程度であれば削っても、虫歯になったりしませんし、しみて痛いといったことが起こりません。そこで、歯と歯の間の部分を各々の歯に対し、少しずつ削って隙間を作ります(写真8)。(A)と(B)の拡大装置による治療は、エッジワイズ治療より前に行うことが多いのですが、(C)の処置は、エッジワイズ治療中、同時に行うことが多いです。

  • ★上記(A)~(C)の方法は、全てを必ずおこなうわけではありません。特に(C)が必要な場合には患者さんの了承のもとおこないますので、安易に削ることはありません。
  • ★歯を抜かない治療といっても、親知らずを抜く場合もあります。非抜歯矯正は、親知らずを除く28本の永久歯がきれいに並んで、機能的に咬み合うことを目指します。
  • ★成長期のお子様であっても、非抜歯による矯正ができない場合があります。
    • 横にも後方にも全く歯列の拡大余地がない
    • 極端な骨格的要因がある
    • 極端な口元の突出感がある
    • 虫歯により、将来的にもたない永久歯である
    • 非抜歯治療の装置使用に非協力的でやむをえない
  • ★成人の患者さんの矯正治療、抜歯について
    上記の方針とは一見矛盾するようですが、顎の成長が期待できない成人の方あるいは歯を抜いた方がよりお顔立ちがキレイになる患者さんの場合には、抜歯治療をお勧めする場合もあります。この場合でも、診断時に十分な説明を行い、治療方針を選択していただけるように心がけております。

5.骨格性の不正咬合について

歯を抜かない(非抜歯)矯正治療について述べてきましたが、それらの矯正治療が成功するためには、一般的には骨格的な不正があまりない場合に有効になります。

しかし、骨格的な不正があっても、成長期(6歳~12歳くらい)の患者さんの場合には、顎の成長発育をコントロールすることを先だって行っておけば、多くのケースで非抜歯治療が可能になります。

エッジワイズ治療(後期治療)に先立って行う顎の成長発育をコントロールする治療を、当院では前期治療と呼んでいます。骨格的な不正咬合には、上下顎の前後的関係から(A)上顎前突・(B)下顎前突、上下的関係から(C)開咬・(D)過蓋咬合、左右的関係から(E)交叉咬合の5タイプ(写真9および10)があります(組み合わさったケースもあります)。それぞれの前期治療について、詳しく説明いたします。

(写真9)前後的および上下的な不正咬合

(写真10)左右的な不正咬合(交叉咬合)

上顎前突

上顎前突の特徴について

写真11

上顎前突とは、いわゆる『出っ歯』のことですが、タレントの久本雅美さんや、明石家さんまさんの様な口元といえばわかりやすいでしょう。写真11のように上顎骨が下顎骨より前方に突出しています。その特徴を挙げてみます。

  • 上の歯が出ているので口が閉じにくい
  • 上の前歯と下の前歯の間に下唇が入り込んでしまう
  • 笑ったときに上の歯や歯茎ばかりが目立ち下の前歯が見えない
  • 下の顎を後ろに引いているように見える
  • 口元が出てしまい横顔がよくない
  • 口を閉じた時は、下顎の先に梅干し状のしわが出る
  • 前歯で食物を咬み切れない
  • 転倒した場合に、上の前歯が折れたり唇をきったりしやすい
  • 鼻や喉に慢性的な疾患があることもある
  • 鼻呼吸ができず、口呼吸になっていることが多い

上顎前突の治療について

前に出ている(過成長の)上顎骨を後ろに引っぱるのか、後ろに引っ込んでいる(劣成長の)下顎骨を前に出すのかで、使用する装置が異なります。

  • 写真12

  • 写真13

ヘッドギアー(写真12)
上顎骨の過成長がある場合には、上顎骨に後ろ向きの力を加えて、上顎骨の成長を抑制します。また、奥歯を後ろに移動させることも可能です。主に就寝時に使用して頂きます。写真12は首から上顎骨を後ろに引っ張っていますが、写真21のように後頭部から引くタイプのヘッドギアーもあります。
ファンクショナルアプライアンス(写真13)
下顎骨の後退や劣成長の場合には、下顎骨が前方に成長するように、ファンクショナルアプライアンスを使用します。ヘッドギアーを併用することもあります。この装置も、取り外しが可能な装置で、主に就寝時に使用して頂きます。

下顎前突

下顎前突の特徴について

写真14

下顎前突とは、いわゆる『受け口』のことですが、アントニオ猪木さんや島田紳助さんのような顔立ちといえばわかりやすいでしょう。写真14のように下顎骨が上顎骨より前方に突出しています。上下の前歯の関係が正常な状態とは逆になるため、反対咬合ともいいます。その特徴を挙げてみます。

  • 下顎が前に出て、真ん中がくぼみ、しゃくれた横顔になる
  • 面長な顔立ちになっている
  • 下唇が翻転して、下唇の下側にある溝が深くなる
  • 前歯で食物を咬み切れない
  • 舌が大きいため、口が閉じにくく話しにくい
  • 体の成長(特に、身長の伸び)により、悪化することが多い
  • 身内に受け口の人がいる場合、遺伝的な要因が強い

身長が伸びると下顎骨も大きくなります。そのため、上下の前歯の関係がいったん正常になっても、成長途中で再発する可能性がありますので、成長があるうちは経過観察する必要があります(小学校低学年から、晩期性の成長のおさまりがつく高校生位まで経過観察する例もあります)。

下顎前突の治療について

骨格的な要因が弱い場合には、リンガルアーチという装置を用いて上顎前歯を前に出し、正常な上下前歯の関係を作るようにします。骨格的な要因が強い場合には、前に出ている(過成長の)下顎骨を後ろに引っ張るか、または、後ろに引っ込んでいる(劣成長の)上顎骨を前に出すような治療も併せて行います。

  • 写真15

  • 写真16/写真17

リンガルアーチ(写真15)
歯のみを動かす装置です。弾線により歯の後ろから力を加え、上顎前歯を前に動かします。骨格的な不正が軽い場合には、この装置のみで正常な上下前歯の関係が得られます。
チンキャップ(写真16)
下顎骨の過成長がある場合には、下顎骨をエラスティックにより後ろ向きに引っ張って、下顎骨の成長を抑制します。主に就寝時に使用して頂きます。口の中にリンガルアーチを併用する場合も多くあります。
フェイスマスク(写真17)
上顎骨の劣成長の場合には、上顎骨が前方に成長するように、フェイスマスクからエラスティックを用いて上顎を前方に牽引します。口の中にはリンガルアーチや急速拡大装置(写真3)などの固定式装置が装着されており、その装置にフェイスマスクからのエラスティックがかかる仕組みになっています。チンキャップと併用するタイプのフェイスマスクもあります。この装置も、主に就寝時に使用して頂きます。

開咬

開咬の特徴について

写真18

奥歯で咬んだときに前歯が全く咬み合わないような状態を開咬といいます(写真18)。開咬のみになっている場合もありますが、上顎前突や下顎前突(特に上顎前突)と併発している場合も多くあります。その特徴を挙げてみます。

  • 上の前歯と下の前歯が咬み合わず隙間が開いている状態である
  • 前歯で食物を咬み切れない
  • 話す時に息がもれるため、発音が不明瞭になることがある
  • 子供の頃の指しゃぶりやおしゃぶりの常用等が原因で起こる場合がある
  • 鼻呼吸ができず、口呼吸になっていることが多い
  • 舌を出してつばを飲み込んだり、喋ったりしている(舌突出癖)
  • 舌が大きすぎる場合がある
  • 口腔周囲筋の力(しまり)が弱い
  • 鼻や喉に慢性的な疾患がある場合が多い
  • いつも口を開けているので、歯肉が乾燥し炎症を起こしやすくなる
  • 咬み合う歯が少なくなるため、顎の関節に負担がかかり顎関節症の誘因になる可能性がある

口呼吸や舌突出癖が原因で開咬が起こると、これらの癖がさらにひどくなります。癖がひどくなると開咬も悪化するという悪循環に陥ってしまいます。この悪循環を絶たない限り、開咬は治りません。いったん治ったように見えても、癖が原因で開咬が再発することも多々あります。人間は一日に約2,000回もつばを飲み込みますが、その度に、無意識に舌を突き出して上下前歯の間にはさむのですから、この癖を止めるのがいかに難しいかお分かり頂けると思います。

開咬の治療について

開咬以外に大きな骨格的な不正が無い場合には、まず原因となっている舌突出癖を治すために、タングクリブ(写真19)を入れます。この装置により、舌が上下前歯の間に出てこなくなり、歯に加わっていた異常な舌の圧力を遮断することができます。開咬の程度が軽い場合には、癖を治すだけで開咬も治ってしまうことがあります。

また、鼻や喉の疾患が原因と考えられる場合は、耳鼻咽喉科での治療をあわせて受けて頂くようお勧めすることがあります。

  • 写真19

  • 写真20

  • 写真21

開咬は、上顎前突や下顎前突と併発している場合が多く、その場合は、他の骨格的な不正を先に(又は同時に)治します。例えば上顎前突を伴った開咬の場合、不正の状態として、前歯が低く、奥歯がのび出ている(過萌出)ので、治療としては、のび出た奥歯を骨の中に引っ込めるように矯正力をかけます。(写真20)の装置はトランスパラタルアーチといいますが、舌の圧力がこの装置にかかると、上顎の奥歯が骨の中に入るような力がかかります。また、ハイプルヘッドギアー(写真21)を併用し、奥歯を骨の中に引っ込める力を増やしながら、上顎骨の成長も抑制します。

過蓋咬合

過蓋咬合の特徴について

奥歯で咬んだときに、正常な咬合状態では、上顎前歯が下顎前歯の1/4~1/3程度を覆っているのですが、それ以上に深く覆っている状態を過蓋咬合といいます(写真22)。過蓋咬合のみになっている場合もありますが、上顎前突と併発している場合がとても多いです。その特徴を挙げてみます。

写真22

  • 笑った場合でも下顎前歯がほとんど見えない
  • 笑った場合に上の歯肉が目立つ『ガミースマイル』を示すことがある
  • 下顎前歯が上顎前歯の内側の歯肉を咬み込んで、歯肉を傷つけることがある
  • 下顎前歯の歯並びが悪い場合が多い
  • 下顎の動きが制限されてしまい、下顎の成長が抑制されやすい
  • えらの張った人や咬む力の強い人にも認められることがある
  • 歯がすり減りやすく、時間の経過とともに、ますます咬み合わせが深くなっていく
  • 虫歯が原因で奥歯が崩壊している場合や、奥歯の欠損がある場合にも認められる

過蓋咬合の治療について

不正の状態として、前歯がのび出ていて奥歯が低いため、治療としては、先ず、低い奥歯がのび出るようにします。のび出た前歯を引っ込めるのは主にエッジワイズ治療(後期治療)で行います。

(写真23)バイトプレートとジャンピングプレートの構造および作用機序

バイトプレート(写真23-Ⅰ)
上顎に装着する装置で取り外しが可能です。バイトプレートを装着すると、装置の平面と下顎前歯が接触しますが、上下の奥歯は離れて咬み合わない状態になります。歯というものは、咬んでいない場合、咬み合う歯を求めてのび出てくる性質を持っていますので、このことを利用して治療します。装置は、食事と歯磨き時を除いて、できるだけ長い時間(15~20時間程度)の使用が必要です。
ジャンピングプレート(写真23-Ⅱ)
この装置も上顎に装着し取り外しが可能です。バイトプレートが下顎前歯の接触する部分が平面であるのに対し、ジャンピングプレートはこの部分が斜面になっています。バイトプレートとほぼ同じ効果が期待できるだけでなく、下顎が後退・劣成長している場合(上顎前突)にも有効です。この装置も、食事と歯磨き時を除いて、できるだけ長い時間(15~20時間程度)の使用が必要です。
  • 写真12

  • 写真13

ファンクショナルアプライアンス(写真13)
過蓋咬合を伴う上顎前突の場合に有効です。低い奥歯がのび出るように調節することが可能です。この装置も、取り外しが可能な装置で、主に就寝時に使用して頂きます。
ヘッドギアー(写真12)
(写真12)は首から上顎骨を後ろに引っ張っていますが、上顎の奥歯が後ろに動くだけでなく、のび出るように下へ引っ張る力が同時にかかります。主に就寝時に使用して頂きます。

交叉咬合

交叉咬合の特徴について

上下顎の奥歯の正常な左右的関係は、上顎の奥歯が下顎の奥歯より外側にあるのですが、その関係が逆の場合すなわち上顎の奥歯が下顎の奥歯に対して内側に咬合するものを交叉咬合といいます。交叉咬合には両側性と片側性があり,下顎が著しく前方位をとると(下顎前突の場合)左右の両側に(写真24-E-Ⅰ),下顎が一方の側にずれると片側に(写真24-E-Ⅱ)交叉咬合が生じます。片側性の交叉咬合の場合、ほとんどのケースで上下顎前歯の正中が左右にズレてしまいます。また、片側性交叉咬合が酷くなると、正面から見て顎が左右片側に曲がって見えるようになりますし、顎関節にもズレが生じてしまいます。

(写真24)両側性交叉咬合と片側性交叉咬合

上下顎の奥歯の正常な左右的関係は、上顎の奥歯が下顎の奥歯より外側にあるのですが、その関係が逆の場合すなわち上顎の奥歯が下顎の奥歯に対して内側に咬合するものを交叉咬合といいます。交叉咬合には両側性と片側性があり,下顎が著しく前方位をとると(下顎前突の場合)左右の両側に(写真24-E-Ⅰ),下顎が一方の側にずれると片側に(写真24-E-Ⅱ)交叉咬合が生じます。片側性の交叉咬合の場合、ほとんどのケースで上下顎前歯の正中が左右にズレてしまいます。また、片側性交叉咬合が酷くなると、正面から見て顎が左右片側に曲がって見えるようになりますし、顎関節にもズレが生じてしまいます。

交叉咬合の治療について

下顎に比べて上顎の横幅が狭い場合には、上顎の横方向への拡大を行います。拡大装置には、急速拡大装置(写真3)、クワッドヘリックス(写真4)、拡大床装置(写真5)があります。それぞれの拡大装置については《歯列を横方向へ拡大する治療》の項に詳しい説明があります。

片側性交叉咬合の場合、多くのケースで上顎の拡大により上下顎前歯の正中のズレは少なくなります。さらに、このズレの治療はエッジワイズ治療(後期治療)でも行います。

下顎前突の場合には、上顎の横幅があまり狭くなくても、両側性に交叉咬合が生じている場合があります。この場合は下顎前突の治療も同時に行います。

★骨格的な不正を改善し、かつ、非抜歯による治療を成功させるためには
  • 顎の成長発育が残っている間に治療を開始する必要がありますので、早期よりの治療をお勧めいたします。
  • お子様本人やご家族の協力が不可欠です。
★骨格的な不正が重度の場合には
  • 歯を抜かない(非抜歯)矯正治療は難しいと思います。
  • 歯を抜いても治療が難しい場合や顔立ちの改善を一番に望んでおられる場合には、体の成長が終了する16歳~18歳以降、手術を併用した矯正治療が必要になります。
★不良な習癖が原因となって骨格性不正咬合が起こっている場合には
  • 不良な癖を治すためには、早期よりの治療の方が効果的です。
  • 癖が治らない場合には、治療が長期に及んだり、治療後に骨格性不正咬合が再発したりします。

6.実際の症例

実際に歯を抜かない(非抜歯)矯正治療で歯並びが綺麗になった症例をご覧頂きます。

叢生

歯の不揃いを気にして来院された10歳の女子です。前歯部交叉咬合を伴う叢生症例として矯正治療を開始いたしました。上顎を拡大床、下顎をバイヘリックスで拡大を行い、非抜歯でエッジワイズ治療へ移行し動的矯正治療を終了いたしました。前期治療として2年、後期治療として2年4カ月を要し、治療費は前後期で81万円(税抜)となりました。

治療前:10歳8カ月 女性
治療後:15歳2カ月

上下顎前歯が不揃いでしたが、非抜歯矯正治療により綺麗な歯並びになりました。

尚、矯正治療には虫歯、歯周病、歯の変色、歯肉退縮、歯根吸収、顎関節症、後戻りなどのリスクがあります。

上顎前突

前歯の突出を気にして来院された8歳の女子です。上顎前突症例として矯正治療を開始いたしました。上顎成長抑制の為、ヘッドギアーを用い、同時に上顎に拡大床を用いました。非抜歯で前期治療のみで動的治療を終了いたしました。前期治療として2年9カ月を要し、治療費は前期分として46万円(税抜)となりました。

治療前:8歳8カ月 女性
治療後:11歳7カ月

前に出ていた上顎前歯が後ろに下がり、口元の突出感も解消しました。

尚、矯正治療には虫歯、歯周病、歯の変色、歯肉退縮、歯根吸収、顎関節症、後戻りなどのリスクがあります。

下顎前突

受け口を気にして来院された13歳の女子です。前歯部反対咬合症例として矯正治療を開始いたしました。上顎にリンガルアーチ、顎外にチンキャップを装着し前歯の咬み合わせを改善し非抜歯で後期エッジワイズ治療に移行いたしました。前期治療に2年、後期治療に2年7カ月を要し治療費は前後期で86万円(税抜)となりました。

治療前:13歳0カ月 女性
治療後:17歳7カ月

上下顎前歯の関係が反対になっていましたが、正常な関係になりました。口元の印象も良くなりました。

尚、矯正治療には虫歯、歯周病、歯の変色、歯肉退縮、歯根吸収、顎関節症、後戻りなどのリスクがあります。

開咬

前歯で咬めないことを気にして来院された7歳の女子です。前歯部開咬と叢生を伴う不正咬合として矯正治療を開始いたしました。下顎に舌癖防止のためタングクリブを装着、前歯の咬み合わせを改善した後、上顎は拡大床で拡大を行い非抜歯でエッジワイズ治療へ移行いたしました。
前期治療に4年、後期治療に2年6カ月を要し、治療費は前後期で91万円(税抜)となりました。

治療前:7歳2カ月 女性
治療後:13歳8カ月

治療前は奥歯で咬んだときに前歯が全く咬み合っていませんでしたが、治療後は、しっかりと上下前歯が咬み合っています。

尚、矯正治療には虫歯、歯周病、歯の変色、歯肉退縮、歯根吸収、顎関節症、後戻りなどのリスクがあります。

過蓋咬合

咬み合わせが深いことを気にして来院された10歳の女子です。過蓋咬合と叢生をともなう不正咬合として矯正治療を開始いたしました。上顎に咬合挙上床を装着し前期治療を行い非抜歯でエッジワイズ治療へ移行いたしました。前期治療に3年、後期治療に2年5カ月を要し治療費は前後期で86万円(税抜)となりました。

治療前:10歳7カ月 女性
治療後:16歳2カ月

治療前は上顎前歯が下顎前歯を完全に覆い隠していましたが、治療後は下顎前歯が半分以上見えるようになりました。また、併発していた上顎前突も治っています。

尚、矯正治療には虫歯、歯周病、歯の変色、歯肉退縮、歯根吸収、顎関節症、後戻りなどのリスクがあります。

交叉咬合

咬み合わせの歪みを主訴に来院された15歳の女子です。下顎の左側偏位を伴う臼歯部交叉咬合として矯正治療を開始いたしました。上顎を拡大床で側方拡大を行った後、非抜歯でエッジワイズ治療へ移行しております。前期治療1年、後期治療に1年2カ月、後期治療に2年1カ月を要し、治療費は前後期で81万円となりました。

治療前:15歳9カ月 女性
治療後:19歳0カ月

下顎が左側にズレて片側性の交叉咬合になっていましたが、治療後は下顎のズレが解消し、上下顎前歯の正中線も一致しています。

尚、矯正治療には虫歯、歯周病、歯の変色、歯肉退縮、歯根吸収、顎関節症、後戻りなどのリスクがあります。

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