治療案内
Loading

顎関節症について

顎関節症の時、関節の中はどうなっているのか?

文責:柴口竜也,布袋善久

正常な顎関節部の解剖学的構造は?

正常な顎関節の解剖学的な構造ですが、右の図を見てください。耳の穴のすぐ前に小さな○印があり、そこが顎関節です。そして、大きな○で囲ったところは顎関節の拡大図です。まず、骨の構造ですが、側頭骨の関節窩と、下顎骨の顆頭から成ります。関節窩と顆頭の間には、関節円板と呼ばれる組織があり、サンドイッチされた状態で存在します。関節円板は、前方部と後方部が肥厚しており、凹んだ中央部で、顆頭が安定するような形態をしています。これはちょうど、真ん中が凹んで頭を支えやすくした、クッションや枕のようなものだと理解してください。関節円板の後方は、後部結合組織とつながっており、前方は外側翼突筋上頭とつながっています。この関節円板の前後の連結はとても緩く、前後的に移動が可能なことを示しています。顎関節部は関節包に囲まれ、内部の空洞は潤滑剤としての滑液で満たされており、円板がなめらかに動くようにできています。

開閉口時に認められる正常な顆頭と関節円板の動きは?

咀嚼や発音といった機能時に、顎関節を介して、下顎はとても自由に動きます。このような動きは、膝関節など他の関節に認められる回転運動だけではとても無理があります。口を開いたとき、顆頭は、その場にとどまって単に回転するのではありません。開口時には、顆頭は回転しながら、関節窩の前方半分の斜面に沿ってスライドします。閉口時には、回転しながら斜面に沿って元の位置へ戻ります。つまり、顆頭は回転とスライド運動を同時にこなしますので、顎関節はとても器用で複雑な関節なのです。正常な顎関節において、開閉口時には、関節円板も、顆頭と一緒に動き、常に関節窩と顆頭の間のサンドイッチ状態がキープされます(下図の左列、正常顎関節を参照)。

顎関節症に認められる構造上の問題と、異常な顆頭と関節円板の動きは?

複雑なものほど壊れやすいのは世の常ですが、顎関節もまたしかりなのです。もし、何らかの影響で関節円板がズレて、関節窩-関節円板-顆頭のサンドイッチ状態が崩れたとしたら、どうなるでしょうか?関節円板は、前後的な連結が弱く、特に後方の結合が弱いため、前方へズレやすいことが分かっています。後方へズレる場合も報告されていますが、極めて稀です。関節円板が前方へズレてしまうことを、関節円板前方転位といい、顎関節症患者の約60~70%に認められます。これは、顎関節症で最もよく見られる病型で、日本顎関節学会により、顎関節症Ⅲ型と分類されています。一度、後方の結合が伸びると、伸びきったゴム紐状態になり、閉口時に、関節円板は二度と元の位置へ戻らなくなります(上図の中央列と右列を参照)。

関節円板前方転位の状態で口を開くと、関節円板の後方肥厚部が顆頭の前方へのスライドを邪魔します。更に開口量を増やすと、顆頭は関節円板の後方肥厚部に乗り上げ、一時的にサンドイッチ状態に戻ります。たとえ一時的であっても、サンドイッチ状態へ復帰することを“復位”といいます。その時に衝撃があり、それが、“カクッ”という関節雑音(クリック)としてとらえられます(上図の中央列を参照)。これは、車が縁石に乗り上げたときのショックと似ています。一般的に、「アゴが鳴る」と表現されますが、これがその正体です。開口から閉口へ転じると、関節円板は再び前方へ転位し、サンドイッチ状態が崩れ、2度目のクリックが生じます。開口時と閉口時に1度ずつクリックが起こりますので、これを“相反性クリック”と呼んでいます。このような関節円板の前方転位を“復位性の関節円板前方転位”といい、まだこの時点では、十分に口が開きますので、痛みもほとんどありません。

関節円板前方転位の状態が酷くなると、やがて、開口時に円板が復位しなくなります。これを、“非復位性の関節円板前方転位”といいます。この時には、クリックが消失し、開口が関節円板により妨害され、「口が開きにくい」状態になります。このような開口障害を、“クローズドロック”と呼びます(上図の右列を参照)。ここまで症状が進行すると、「アゴが痛い」ということになります。

関節円板前方転位はいつ頃から起こるのか?

学童期の正常ボランティアの子供に対して、顎関節部のMRI撮影を行い、その経年的な変化を調べた報告がありました。MRI撮影では、関節円板の位置を3次元的に評価できます。その結果、10歳~14歳の被験者の中に、関節円板の外側の一部が前方転位している所見が複数認められたとのことでした。この程度の一部転位なら、クリックなどの症状はほとんど無いと思われます。もし、この事実を顎関節症のきっかけと考えるのなら、中学生から高校生にかけて顎関節症を発症することが多いということに合点がいきます。後述しますが、この時期は、矯正治療の最適時期とくしくも重なっており、何らかの誤解を受けるもととなっています(《矯正治療で顎関節症が発症したり、酷くなったりすることはあるのか?》の項を参照)。

顎関節症には色々なタイプがあるのか?

日本顎関節学会では、顎関節症を次の5型に分類しています。Ⅰ型:咀嚼筋障害、Ⅱ型:関節包・靱帯障害、Ⅲ型:関節円板障害、Ⅳ型:変形性関節症、Ⅴ型:その他の関節症。その中でも、関節円板の転位による顎関節症(Ⅲ型)が圧倒的に多く(約60~70%)、当然ながら、顎関節症治療を目的として矯正歯科を受診される患者さんはほとんどこのタイプです。よって、他のタイプの病態については省略し、Ⅲ型の病態のみ上記に詳述しました。


治療案内の他のコンテンツ